「探そう探そうどこまでも」





――北条加蓮の家(夜)――
喜多見柚「う〜〜〜〜〜〜〜ん」
北条加蓮「はー……」ホカホカ
加蓮「……どしたの柚? 難しい顔しちゃって」
柚「あ、加蓮サンっ。お風呂気持ちよかった?」
加蓮「うん。疲れてたからかな、ついのんびりしすぎちゃった……げ、もう11時かー。寝なきゃ」
柚「アタシはまだまだ起きてられるっ」
加蓮「起きてていーよ……私は寝る。電気つけっぱなしでも寝られるし」ベッドニダーイブ
柚「えー、加蓮サンも起きてよーよー。アタシの悩みに付き合ってー」ユッサユッサ
加蓮「やだよ眠……ん? 悩み?」カオヲアゲル
柚「うん、悩み」
加蓮「明日のおやつは何にしよー、とか?」
柚「違う違うっ」
加蓮「明日は穂乃香ちゃんにどんなイタズラしかけよー、とか?」
柚「違うーっ。もう、柚を何だと思ってるのっ」
加蓮「え? 事細かく説明していい?」
柚「…………ヤメテ」
加蓮「あははっ。でー? 何に悩んでるのよ。ほらほらおねーさんに話してみなさい?」
柚「わっ、今の言い方Pサンぽかった。アタシのPサンっ」
加蓮「え、そう? あーそういえばこういう風に言ってたっけ」
柚「キャラかぶり!」
加蓮「優秀なお姉さんが2人いると思えば心強い!」
柚「う〜〜〜ん」
加蓮「……何言ってんだコイツって顔はやめて、凹む」
柚「あっ、違うよ! そうカモって思って見てた!」
加蓮「そ、そっか」
加蓮「んっ……」カラダノバシ
加蓮「寝る前に話してよ、悩み事ってヤツ。気になって寝付きが浅くなるよ」
柚「うんっ。えっとね。今日、みんなでレッスンがあったんだ」
加蓮「うんうん」
柚「そんでそんで、最近やってるソロのお仕事の話になってー。あずきちゃんがね、和服のCMに出たら家の宣伝になる! って言って」
加蓮「確か呉服屋なんだよね」
柚「布とか服とかいっぱいあるよ! 反物……だっけ?」
加蓮「あははっ、柚には縁がなさそうな場所だ」
柚「な、なにおう」
柚「そんでね、次もそーいう仕事がやりたいって言ってた! アイドルなる時にいっぱいワガママ言ったんだって、だから親孝行! って」
加蓮「へー、意外と真面目な子なんだね……」
柚「それ聞いてさ」
柚「そっかー、アイドルやる……理由、って言うのかな。があるんだーって思って」
柚「アタシ、なんでアイドルやってるのかなーって思ったら」
柚「……なんにも思いつかなくて」シュン
加蓮「ふうん……」
柚「忍チャンも穂乃香チャンも、いつもこれをやりたいあれをやりたいって顔してるし」
柚「アタシなんにもないから、そーいう理由みたいなのもぜんぜんないんだ」
柚「……あっ、だからって落ち込んだりしてないからね! アタシはもう回復したの!」
加蓮「知ってるってば」フフッ
加蓮「それに、ないなら探すって決めたんでしょ?」
柚「うん! 加蓮サンとの約束!」
加蓮「ふふっ。……約束、か」
柚「そ、約束! 守らないと加蓮サンの頭にツノが生えるからちゃんとやらなきゃ!」
加蓮「おい、誰が鬼だ」
柚「ギャー! 加蓮サン加蓮サンその顔が鬼ってこと!」
加蓮「ったく」
柚「ねぇねぇ。加蓮サンはなんでアイドルやってんの? もくてきー、とか、もくひょー、とか。なんかすごそうなのありそう!」
加蓮「別にすごくはないよ……小さい頃さ、テレビで見て憧れたってだけだよ。ほら、私って小さい頃にずっと入院してたから、やることなくて。ずーっとテレビばっかり見てて。そしたらアイドルがキラキラしててさ……」
加蓮「ん? 私この話アンタにしてない?」
柚「うん、アタシも聞いたことある気がした」
加蓮「んーと……あ、あの時だ。ほら柚がうちに最初に来て私と殴り合い――」
柚「殴り合いはしてないっ! そそそれにあの時の柚はほらぐるぐるがどっかーんってなってたからその話はやめてーっ!」
加蓮「あははっ、分かった分かったやめるやめる」
柚「あれ、加蓮サンが意外に素直だ」
加蓮「ん?」
柚「違う違う違いますっいじめてほしいとかじゃないー!」
加蓮「あはっ。ま、私も昔話とかあんまりされたくないタチだし、柚の気持ちは分かるよ」
柚「そ、そお?」
柚「それにしても加蓮サンはやっぱりすごいなー。柚とは大違いだ」
加蓮「褒められることじゃないよ……ただのワガママなんだし」フイッ
柚「とか言って加蓮サン顔真っ赤!」
加蓮「うっさいなー。目的とか目標があったら偉いの? そうじゃないでしょアイドルなんて」
柚「そっかなー……」
加蓮「ったく。柚。もっと自分を認めてあげなさい。私を尊敬してくれるのは……まあ、嬉しいけど、でも自分なんかって言っちゃ駄目」
加蓮「柚だってアイドルでしょ? 私と同じ、アイドル」
柚「うん……アタシはアイドルだっ」
加蓮「はいはい。じゃー私は寝るから。起きてるなら静かにしてねー」
柚「あ、加蓮サン! もひとつだけ!」
加蓮「ん?」
柚「加蓮サン目標はないの? 目的じゃなくて、目標! こうしたいとかこうなりたいとか!」
加蓮「目標……? んー……んー?」
柚「あ、アレ?」
加蓮「目標…………。目標?」
柚「もしかして……ない感じカナ?」
加蓮「言われてみれば……」
柚「こう、トップアイドルを目指すぞー! みたいなの! ちなみにアタシはゆるーく頑張りたいだけっ」
加蓮「って言ってもねー……そりゃPさんの期待には応えたいけど、なんていうかなー……。ああ、まあ、目標って言っていいか分かんないけど」
柚「なになに!?」
加蓮「ファンに教えてあげたいかなー、ってのなら。夢は叶うんだってこと。ほら、こんな私だって夢を叶えたんだからさ。頑張ればできるよーって、みんなに言ってあげたい……ってのはあるかも」
柚「そっか……」
加蓮「……別に、そんなの私がやりたいってことだけだよ。あんまり比較してもしょうがないと思うよ?」
柚「ううんっ、参考にしたかっただけ!」
加蓮「そ。まあ……せっかくアイドルになったんだし、柚も何か言いたいことがあるなら言ってみれば? 聞いてくれる人、いっぱいいると思うよ」
柚「アタシの、言いたいこと…………」
加蓮「……悩みすぎて寝不足にならないようにね。別に、ないからって駄目とかじゃないんだから」
柚「アタシ……」
柚「えっと、ちょっとわかんない……カモ?」
加蓮「そ。じゃあいいじゃん。言いたいことがないとアイドルやったら駄目なんて誰も決めてないし……ふぁ、ねむ…………ねーもう寝ていい?」
柚「あ、うんっ。ゴメンね?」
加蓮「じゃあ今度ジュースでも奢ってねー……おやすみー……」
柚「おやすみっ加蓮サン! アタシはもうちょっとだけ起きてよーっと」

――北条加蓮の家(早朝)――
柚「朝! あさだよ加蓮サン! 起きてーっ」ユッサユッサ
加蓮「んぅ……?」
柚「あーさー!」ユサユサユサユサ
加蓮「はいはい、おきますおきます……んっ…………」セノビ
加蓮「……まだ5時半じゃん……アンタ、私より遅く寝てんのになんでこんな早く…………」
柚「加蓮サンより遅く起きたら顔に落書きされそう!」
加蓮「それやるのアンタのほーだろ……」
柚「そうカモっ。あっ、そうだ! おはようっ、加蓮サン!」
加蓮「おはよー、柚」
柚「ってことで、加蓮サン、お着替えの時間ですよー」キラーン!
加蓮「出てけ」ゲシッ

<きゃーっ! 加蓮サン照れ屋!
<ガチャ

加蓮「…………」
加蓮(……悩み事とか言いながら、寝て起きたらこーなんだよなぁ、柚って)
加蓮(ちょっと羨ましいかも。延々引きずるよりずっとマシなんだし)
加蓮(……いや、やっぱただのアホの子でいいや、うん)


掲載日:2015年10月6日

 

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