「外縁内縁」





『柚ちゃん、どうしてる?』

『凹んでる』

――北条加蓮の部屋(昼)――
喜多見柚「これと……これ」メクリ
北条加蓮「はいハズレ。私の番だね。……ダイヤの4? んー、どっかで見たような」
柚「加蓮サン、きっとこれだ」
加蓮「対戦相手に教えてどうすんの? よし、私は柚を信じないでこっちをめくる」メクリ
柚「なんでぇ!?」
加蓮「ハズレー。はい、柚の番だよ」
柚「むむ。柚を信じなかったことを後悔させてやるっ」メクリメクリ
柚「……あれー!? 違うー!?」
加蓮「やっぱり」

『会わせて』

『ごめん。無理』

柚「これとこれ!」
加蓮「ハズレ。柚、もしかしてフィーリングでやってない?」
柚「アタシ覚えるの得意じゃないからっ、もうテキトーでいいやってなっちゃった!」
加蓮「神経衰弱って何だっけ……」
柚「加蓮サンだって、まだ2枚しか取れてないのに。えらそーだっ」
加蓮「私も柚と同じだよ。フィーリングの方が楽しいじゃん」
柚「だよねだよねっ。加蓮サンは、アタシと同じ?」
加蓮「柚と同じ」
柚「そっか」

『なんで!』

『私の判断で』

柚「えいっ。やった、当たった」
加蓮「やっと1セット目だね。おめでと、柚」
柚「今日はきっといいことあるカモ」
加蓮「……えー、30回くらい外した後でも?」
柚「いいことあるって思ったら、きっといいことがあるっ」
加蓮「そうだね。さて、だいたいトランプの場所は覚えたから、そろそろおしまいにしよっか」
柚「あれぇ!?」
加蓮「フィーリングでやるとは言ったけど覚えてないとは言ってないし」
柚「なんですと!? アタシもう出番無し!? いらない子!?」
加蓮「いるいる。応援してくれないと、どこかで失敗しちゃうかもしれないでしょ?」
柚「そっか! じゃあアタシ加蓮サンを応援する。フレーフレー、加蓮サン!」

『いいから会わせて。アタシそっち行くから』

『柚に言ってみたよ。今は誰とも会いたくないって』

加蓮「ふうっ……。よし、っと」
柚「すごっ。加蓮サン、ホントにぜんぶ覚えてたんだ」
加蓮「でも疲れちゃった。神経衰弱って、本当に神経が衰弱するね」
柚「トランプはあと4枚。ささっ、加蓮様、どうぞっ」
加蓮「様? ……んー」メクリ
(スペードの9とハートの2)
柚「……えっ?」
加蓮「あーあ、ミスっちゃった。はい、柚の番だよ」
柚「……とりゃー!」
柚「も1枚っ」
加蓮「ふふっ。お疲れ様でした、柚」
柚「お疲れお疲れ! ……わっ、もう8時。ご飯の時間だ」

『それ、アタシも? Pさんも?』

『みんなだって。だから無理。うちに来ても柚には会わせられない』

柚「加蓮サンの、……お母、さん。今日は何のご飯かな〜」
加蓮「……ごめん、柚。楽しみにしてるとこ悪いんだけど、今日、お母さんの帰りが遅くなるって。だからお弁当を買って来るって言ってた」
柚「」ガーンッ
加蓮「ごめんってばー。そこまで柚が気に入ってくれるって思ってなくて。今度お母さんに言っとくからね? きっと張り切って作ってくれるよ」
柚「むむむ……」
加蓮「ね? それで許して。お願いっ」
柚「……加蓮サンに頼まれちゃった。しょーがないっ」

『同じユニットなのに』

『ごめん』

柚「…………」
加蓮「ん? どったの?」
柚「…………んーん、何でも」
加蓮「ふうん」
柚「…………っ……」
加蓮「……泣きそうな顔で何でもって言われても……そうだねー」
加蓮「そのまま何も言われなかったら私が気になって気になって夜も眠れなくなるから」
加蓮「私を助けるって思って、話して?」
柚「……加蓮サン、気遣いへたくそっ」
加蓮「う、うっさいな! 慣れてないのよこーいうの!」
柚「あははっ。……アタシ、ずっとこのままでいたいなって」
加蓮「ずっと?」
柚「こーして、家で遊んで、……お、母、さん、のご飯を食べて……一緒にお風呂に入って、一緒に寝るんだ」
柚「ずっとずっと、一緒に」
柚「加蓮サンと、きょーだいになったみたいで。家族になったみたいに」
加蓮「……うん」
柚「でもアタシ、アイドルだ。アイドルになっちゃったし、今も……なんにもなくても、アイドルやめたいってあまり思わないんだ」
柚「加蓮サンがね、Pサンのこと考えないようにって言ったけど、ときどき、考えちゃって」
柚「戻らないと、って思うんだけど、……そしたら、あの時のこと、思い出して」
柚「体が、カチンコチンって」
柚「そしたらまた、ここに居たいなって思っちゃう」
加蓮「そっか…………」

『加蓮が謝ることじゃない』

『でも、ごめん。ユニットの話なのに、私がしゃしゃり出ちゃって』

加蓮「ねえ柚。もしもさ、百億円か、一生分のピョッキーがもらえるとしたら、柚ならどっちが欲しい?」
柚「え? ……迷っちゃうナー。百億、百億って何だろ。いっぱい遊べる? でもピョッキー食べ放題も捨てがたいっ」
加蓮「ふふっ。二者択一なんてそんなものだよ。だから、柚が今、どこに居たいかなんて、すぐに決めなくも大丈夫」
柚「うーんっ……」
加蓮「それにね。よく考えてみて。百億円あればたぶん、一生分のピョッキーを買ってもお釣りが来るでしょ?」
柚「……ホントだっ! 加蓮サン、アタシを騙した!?」
加蓮「んーん。でね、柚。もしピョッキーを選んで百億円がもらえないのって、嫌?」
柚「うーん、それでもピョッキーは美味しいよ!」
加蓮「うん。そういう物なんだよ、世の中なんて」
柚「迷って、どっちを選んでも大丈夫……」
柚「……でも、加蓮サンの足にしがみついちゃってる。加蓮サンだって、アイドルなのに」
加蓮「…………」

『謝るなら柚ちゃんをアタシ達に返して』

『分かった、じゃあ謝らない。その代わりに身勝手なお願いをするね。あの子の居場所、残してあげて』

加蓮「……ま、私も、Pさんからたまには休めって言われてるから、ちょうどいいんだよ。きっと」
柚「…………」
加蓮「ホントだってば。もー、確かに私は冗談をよく言うけど、嘘はつかないようにしてるんだよ」
柚「……加蓮サン、柚に嘘ついてたって言った」
加蓮「ああ、うん、あれはごめん、つい……。……あ、あれにしたって、嘘をついたんじゃなくて、言ったことが後から嘘になっちゃっただけだから!」
柚「…………」
加蓮「そんなことよりさ。ほら、お母さんが帰ってくるまで何か遊ぼうよ。私は1人でできることしか知らないから、柚が教えてくれると嬉しいんだけどな?」

『当たり前。アタシ達から柚ちゃんを奪ってるの加蓮の方だよ』

『そう。私は悪者でも何でもいいから、少しだけ、柚を休憩させてあげて』

柚「…………思いつかないモン」
加蓮「えー、ホントに? 意地悪して私を困らせたいだけじゃなくて?」
柚「べーっ」
加蓮「あっ、コイツめ。このこのっ」コチョコチョ
柚「わ、わ、きゃー!!?? 加蓮サンやめてっこちょこちょはだめホントだめっ柚これ弱いのっあははははははははっっ!!」
加蓮「やめてと言われてやめるほど私は素直じゃないっ!」
柚「だめええええええーーーっ!!」アハハハハ

『これだけは絶対に言わないって決めたのに』

『何を?』

柚「はぁ、はぁ、か、加蓮サン、容赦なさすぎっ……!」
加蓮「ぜー、ぜー、お、お互い様でしょ……」
柚「ぅぅ……あっ、車の音がした!」
加蓮「ホントだ。お母さんかな」
柚「柚もうお腹ペコペコ。でも加蓮サンの、お母、さん、といっぱい話するんだ! えっと、加蓮サンのこととか!」
加蓮「うん。お母さんも、きっと喜んでくれるよ」
柚「いっぱい話するんだ」
加蓮「……ん。いっぱい」

『柚ちゃんのこと、よろしくお願いします』

『うん、引き受けた』


掲載日:2015年9月8日

 

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