「    」





――レッスンスタジオ――
ベテラントレーナー「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー!」
北条加蓮「…………」タタンッ
安部菜々「ミンッ☆」タタンッ
ベテ「ワンツースリーフォー、大きくターン!」
加蓮「よっ……」タタッ
菜々「キャハッ☆」タタッ
ベテ「そこまで! ……よし。十分に仕上がっているな。これなら本番も問題はないだろう」
加蓮「ふふっ、よかった」
菜々「さっすが加蓮ちゃんですね! 最近はお仕事で忙しかったのでは?」
加蓮「何をやっていても、LIVEを疎かにする訳にはいかないでしょ。これでもアイドルなんだから」
菜々「ナナだって負けませんよぉ!」

高森藍子「お疲れ様です、おふたりとも」ハイッ
加蓮「ん、ドリンクありがと」
工藤忍「お疲れ。やっぱりすごいね……加蓮と菜々さんって」
喜多見柚「…………」
菜々「いやぁそれほどでも。加蓮ちゃんにはついていくだけで精一杯ですねぇ。体がもうギシギシ言ってますよ!」
加蓮「菜々さ……菜々だって、気を抜いたら飲み込まれそうになるもん」
菜々「いやいやナナなんてまだまだですよ!」
忍「……あはは。菜々さんがまだまだなら、アタシとかどうなるのさ」
加蓮「忍?」
忍「さて、次はアタシの番だ。アタシだって頑張らないとね! いくよ柚ちゃん!」
柚「…………」
忍「……柚ちゃん?」
柚「えっ、あっ、ゆ、柚の番!」
藍子「大丈夫ですか? さっきから、ぼーっとしちゃってるみたいで……」
柚「いや、そのー、ね? ほら、アタシってダンスレッスン久しぶりだから! 思い出さなきゃー思い出さなきゃーってなっちゃってた!」
菜々「若者はいいですよねぇ、ナナなんて1度忘れると思い出すまで時間が――ハッ! まあナナも若者ですが!」
忍「……???」
柚「よーし張り切っていこー! ベテトレさん、お願いしまーす!」
ベテ「あ、ああ。工藤も早く準備を。せっかくの合同レッスンなんだから時間を無駄にするな!」
忍「は、はいっ」

ベテ「右、左、右、左、そこでターン! 喜多見、もっと指先を伸ばせ! 工藤、ステップ早い!」
柚「わわっ」
忍「は、はい!」
ベテ「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー! 工藤、もう少し客席を意識! 喜多見は笑顔を忘れるな!」
加蓮(……え?)
柚「に、にぱっ」
忍「前を見る……顔を上げて……!」
ベテ「ワンツースリーフォー、大きくターン! ……そこまで!」
ベテ「ふむ。悪くはないが、もうひと段階は上げられそうだな。まだ期間もあるし、さらに厳しく行くぞ!」
柚「えええっ」
忍「お願いします!」
柚「忍チャンっ!?」
ベテ「ではもう1度、頭から――」

加蓮「なんか今日のベテトレさん厳しいねー。Pさんから発破でもかけられたかな」
菜々「ナナの聞いたところによりますと、LIVEを控えているのに1日オフを作るのがどうも性に合わなかったみたいで」
加蓮「ベテトレさんの?」
菜々「ええ! いつも熱心に指導してくれますからね! さすがに遊んでるってまでは思われてないでしょうけど」
加蓮「ふうん……」
藍子「きっと、ベテトレさんも分かっている筈です。明日が何の日で、どうしてみんなでオフを取るのか」
加蓮「……別に、ただの9月5日じゃん」
菜々「はいはい分かりきっている相手にツンデレしても効果は薄いですからね」
加蓮「さすが菜々さん。どう動いたらどう弄られるか熟知してるね」
菜々「誰がじゃー!」
藍子「あはっ。明日は、加蓮ちゃんがそんな悪態をつけなくなるくらい、楽しい1日にしちゃいますから!」
菜々「そーですよそーですよ。藍子ちゃんなんてもう2週間も前からずーっと指折り数えてたんですよ? まったく加蓮ちゃんってば」
藍子「そ、それは秘密のことなのにっ」
加蓮「…………もう。普通の日なのに」
菜々「加蓮ちゃんは変わらず強情ですねぇ。おおっと、忍ちゃん達のレッスンが終わったみたいですよ?」
藍子「私、ドリンク持ってきますねっ」パタパタ
加蓮「まったく……」

菜々「キャハッ☆ お疲れ様でした!」
加蓮「お疲れ。息、すごいことになってるね」
忍「はーっ、はーっ、げほっ……あっ、藍子ちゃん、ドリンクありがと……」ゴクゴク
柚「ぜぇ、ぜーっ。ベテトレさん柚たちをいじめるのうますぎぃ……」
ベテ「そこ、聞こえているぞ。私はキミたちがついてこれると思っていることをしているだけだ」
加蓮「マストレさんに比べたらマシってことで」
藍子「タオル、足りなくなっちゃいそうですね。新しいの、取ってきましょうか」
ベテ「タオルならこちらで予備を用意している」
藍子「そうなんですか? じゃあ大丈夫みたいですね」
加蓮「アンタはマネージャーか何かか……」
忍「ふうっ。でもやっぱりいいね。頑張った結果が得られるって」
加蓮「……? どゆこと」
忍「ベテトレさんがもうひと段階は上げられるって言ったけど、それってアタシ達の実力を認めてくれたってことだよね♪」
ベテ「当然。見込みのない者にはそれ相応のことしか教えられないからな」
忍「ってこと!」
加蓮「ふうん……アンタ、努力するだけが好きなんじゃないんだ」
忍「もちろん努力は好きだけど、努力で結果を出せるのもいいじゃん♪」
加蓮「……そっか」
忍「そういえば加蓮ってそういうとこあるよね。結果が全てって部分」
ベテ「他のトレーナーからも聞いているな。過程を少しばかり軽視していると」
加蓮「うぐ……別に軽視してるんじゃなくて、結果が出せられればいっかなー、って……」
忍「アタシ、そういうとこに影響されてるかも。努力だけ見てても何も始まらないよね。ちゃんと結果も出さなきゃ」
忍「なんたってアタシはアイドルだもん。Pさんだって見てくれてる。だからもっともっとやるんだ!」
加蓮「そっか。忍……なんか、吹っ切れた?」
忍「かもね」アハハ
藍子「迷わずに頑張られるのは、いいことですっ」
菜々「若いうちは当たって砕けろ! ですよ!」
柚「…………」
ベテ「皆の言う通り、迷いのないことはいいことだな。さて、では今が伸びしろの工藤と――」
忍「え、ちょっと、アタシ今やったばっかりだよ!?」
ベテ「北条も一緒にやってもらおうか!」
加蓮「え、私も? でも、私と忍じゃそもそもやる曲が――」
ベテ「北条は1番、工藤はサビの一部に似た振り付けがある。別の曲での練習にはなるが、一緒に教えることはできるだろう」
ベテ「さあ、準備を。キミたちには期待している!」

ベテ「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー! 工藤、北条の様子を参考にしてみろ! もっとビシッとやれる筈だ!」
ベテ「北条はもっと恐れずに動け! 体力をセーブするばかりでは何も伝えられないぞ!」
加蓮「はっ、はっ……無茶を言う……!」
忍「いち、にっ、いち、にっ……」
ベテ「そうだ! 工藤、少し足が浮ついているぞ! もっと力強く!」
忍「ハァ、ハァ、ぐっ!」

ベテ「そこまで。工藤、せっかくの合同レッスンだ。盗める物は何でも盗んでいけ」
ベテ「……工藤と北条の関係は知らないが、アイドルにおいては別の話だ。それは分かるね?」
忍「もちろんっ。なんの為に加蓮とやってるか分からないもん!」ゼーゼー
加蓮「ふふっ……盗める物なら盗んでみなさいよ……!」ハァハァ
藍子「お疲れ様です。……大丈夫ですか? 加蓮ちゃん。顔、青くなってる……」フキフキ
加蓮「大丈夫。ちょっとストッパー外しちゃったな……」
菜々「それでこそ加蓮ちゃんですよ! ますます動きにキレが出てて、これはもうナナ焦っちゃうばっかりですね!」
藍子「そうかもしれませんけれど……もうっ。無理は禁物ですよ?」
加蓮「分かってるよ、藍子。菜々さんこそまだまだ余裕でしょ? ダンスじゃ勝てる気がしないよ……」
ベテ「そうだな。北条もまだまだこれからだと私は見ている。工藤に負けないくらいにな」
加蓮「回復したらまたやらせてよ。もっともっとパフォーマンスを高めないと……!」
菜々「ファイトですよお加蓮ちゃん!」
藍子「もし倒れそうになったら呼んでください。できる限り、助けますから」
加蓮「ん……っ」
柚「…………」
ベテ「次! 喜多見と高森! 同じように別の曲を使ってのレッスンとする!」
藍子「は、はい!」
柚「……うん」
ベテ「北条と工藤に圧倒されてばかりじゃ駄目だ。キミ達もアイドルなんだぞ? むしろ見返すくらいの気持ちでやれ!」
ベテ「常に周囲を驚かせるくらいの意気込みが大切だ!」
藍子「分かりましたっ。あの、私、えっと……びっくりさせられるか分かりませんけれど、しっかり見ててくださいね、加蓮ちゃん、菜々さん。もちろん、忍ちゃんも!」
加蓮「ん」
菜々「キャハッ☆」
忍「うん♪」
柚「…………」

ベテ「ワンツースリーフォーワンツースリーフォー! 喜多見、動きがぎこちない! 次の動作を常に頭に入れる!」
ベテ「高森、いいぞ! 緩急の意識ができているみたいだな! もっと派手に動いても大丈夫だ!」
藍子「やってみますっ」
柚「…………」
加蓮(…………柚?)
ベテ「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー! もっと音楽を聞いて! ステップの音も合わせるくらいの気持ちで!」
ベテ「ワンツースリーフォー、ワン――」
柚「…………」タタン
藍子「やっ、やっ」タンタン♪
柚「…………」チラッ
柚「…………」タンッ
ベテ「喜多見、力の入れどころをもっと意識するように! 高森を見習え!」
柚「…………」タンッ
柚「…………」タタン
藍子「やっ、ほっ」タンタン♪
柚「…………」タタッ
ベテ「そこまで! 高森、だいぶ上達しているな。さては北条や安部……さんに触発されたか?」
藍子「えへへ……おふたりを見ていると、私までつられてしまって」
加蓮「藍子はチャレンジャーだね。菜々じゃないけど、教える側がいつの間にか教えられる側になりそうで怖いよ」
菜々「ちょ、ベテトレさん!? なんでナナにはさん付けなんですかねえ!?」
ベテ「いや、だって、なぁ……?」
菜々「こらーっ!」
柚「…………」
加蓮「…………?」チラッ
柚「!」
柚「べ、ベテトレさん! もっかい! アタシ、もっかいやりたい!」
ベテ「む、そうか。ではもう1度、2番の頭から」
藍子「はいっ」
柚「…………」ギュッ
忍「……? 柚ちゃん……?」

ベテ「ワンツースリーフォー! 喜多見、周りをもっと意識するように! 高森は周りばかりじゃなくて自分の動きを意識!」
ベテ「ステップ、ターン! もっと大きく、両腕を広げて!」
ベテ「高森、さっきと同じ動きでも見せ方を変えるよう意識しろ! 喜多見はもっと大きく動く!」
柚「はぁ、はぁ……」タンタン
藍子「違う見せ方……えいっ」タンッ
ベテ「その動きいいぞ! さらにアピールだ! 喜多見! 笑顔を忘れたんじゃファンは満足しないぞ!」
柚「はぁ、はぁ……」タタッ
柚「…………あっ」ズルッズテッ!
加蓮「柚!?」
忍「柚ちゃん!?」
ベテ「む……少し、熱くなりすぎたかな」
柚「イタタ…………」
藍子「ふーっ……柚ちゃん、大丈夫ですか? 今、すっごい音がして……痛くありませんか?」ノゾキコミ
柚「…………」
藍子「はいっ。少し、休憩にしちゃいましょう。ベテトレさん、ちょっとだけいいですか? ……あは、私も疲れちゃって」
ベテ「そうだな。体を休めることもレッスンの一貫だ。ちょっとクールダウンにしよう」
藍子「よかった。柚ちゃん、立ち上がれますか? ……もし、足をひねったのなら、医務室に――」スッ

柚「…………!」パシン!

藍子「…………え?」










――何かが、破裂したような音がした。

目の前で起きた光景を、頭が理解し、組み立てていく。
頭の冷静な部分が、北条加蓮という私の脳が、状況を理解していく。ただしそれは酷く断片的な言葉で――具体性なんて欠片もない。説明できる自信もない。もし隣でポカーンとしている菜々さんに伝えたら、何を言っているんだと首を傾げられるのが関の山だろう。
他人には理解されない理解。それでありつつ、私は確信していた。

何かが、弾けて、訪れたのだと。

「柚ちゃん…………?」

逆隣では忍が似たような顔をしていた。違うのは、菜々さんが藍子を見ていて、忍が柚を見ているということ。
当たり前のことだ。何事か起きれば、まず自分に近い人の心配をする。菜々さんが柚と、忍が藍子と、それぞれ仲が悪いという訳ではなく。家族が事件に巻き込まれた時と見知らぬ他人が事件に巻き込まれた時、その知らせが同時に入ったら、誰しもが家族の方を心配するのと全く同じことだ。
ただ、それが当たり前だというならば、私は少し、当たり前という価値観から外れていたことになる。
だって私は、藍子と柚のレッスンが始まってからずっと、ユニットを組んでいる藍子ではなく、表面上は何の接点もない柚をずっと注目していたのだから。

「…………へ?」

藍子が中腰のまま、じん、と赤くなった手の甲へと目を落とした。それから、柚を見て、もう1度、今起きたことを冷静に分析しようとしている。
申し訳ないけれど――のんびり屋でゆっくりやっていて、いつもその心地よさと暖かさに救われている私がこう言うのも本当に本当に申し訳がないけれど……把握が、遅い。
当事者としては、状況の判断が遅すぎたのだ。
転んだまま震える柚が。バッ! と顔を上げる。
私たちの目に晒されていることを知る。
藍子が判断するよりも早く。
藍子が正しい行動を見つけるよりも早かった。



「……見るな……!」



近づこうを腰を浮かしかけていた忍が、ピタリ、と止まった。
地の底から響く声に、この場の全員が床に足を縫い止められた。
私も、神経を止められたように、指先1つ動かすことができなかった。
柚が。
叫ぶ。





「……そんな目で……何もないあたしを見るなあああああああッ!!」





ドン! と床を蹴る音が、爆発音のように耳に届いた。その時にはもう、ごう、と身体のすぐ傍を風が通りすぎていて、気がつけば色褪せたオレンジ色がレッスンスタジオから消えていた。バタン! と、破壊すら連想する轟音でドアが閉まる。
その音で何人かのスイッチが入った。菜々さん、ベテトレさんの2人が、はっ、と顔を上げることができた。

「え……っと、ええ、と、…………あの、今の、何が……?」
「少し要求をしすぎただろうか。あとで担当の彼女に何を言われることか」

さすがにベテトレさんは状況判断が早い。少なくとも、表舞台で何事か起きるよりも、下積みであるレッスンスタジオで今のような出来事が発生する可能性の方が高いのだろう。
もちろん統計というフィルターを通じて物事を見る訳にはいかない。仮に発生母数が多かったにしても、今、この場で喜多見柚という少女に何事かが起きたという事実は覆らず――喜多見柚という少女に代替が効かないことは当然の事実だ。

ぺたり、と僅かに肉感を伴う音が聞こえた。

「あの……私…………何か、柚ちゃんを、怒らせること……」

当事者の片割れ、手の甲をさすりながら目を見開いている藍子が、呆然と呟く。
いえいえ! と菜々が上書きするように言った。藍子ちゃんは何もしてませんよ! と続ける。
ね、加蓮ちゃん! と同意を求める声に、私は何も答えなかった。
きっと。
きっと。
正解か不正解か、で言えば、北条加蓮という人間は不正解を引き当てたのだと思う。
でも、正解か不正解か、なんてどうでもいい。
そんなこと、いつだって判断基準にしていない。
病気持ちでアイドルをやっている時点で、そもそも存在が不正解なのだから。

「…………」

そうやって言い聞かせても。
藍子に対して――客観的事実を述べるだけならば、一方的に柚に叩かれた最大の被害者であり、最も仲良しの相手、つまり有事が起きれば最初に気をかけるべきである藍子に対して何も言えないことへの罪悪感は、封じ込めても封じ込めても漏れでてこようとする。
痛む胸を右手で抑えながら立ち上がる。菜々さんからの視線が、少しだけ険しくなった。
この人はもしかしたら私の意図と意志を早くも理解したのかもしれない。こういう時に2X歳という経験は厄介極まりない。
それでも、射抜くような目なんて、正面から向かい合わなければただの錯覚だ。

藍子と菜々さんに、背を向けて。

未だ立ち上がれないままの忍の横を通りすぎて。

「…………!」

レッスンスタジオの出口へと駆け出す。扉を開けた時点で早くも身体がぎしぎしと軋み、手から力が抜け、

「加蓮ちゃん!」

……振り返ってしまった。
菜々さんが、睨んでいた。
藍子を庇いながら、睨んでいた。
今やるべきことはそれですか、と尋ねていた。
唇を、歯で噛みしめる。
胸が痛い。
心臓が痛い。
でも、私は決めたんだ。
今は、藍子と柚が崖から落ちそうになっていたら、迷いなく柚を助けるのだと。

レッスンスタジオの扉を閉める。全身へかかる圧力から解放されて、身体が動く。
どこへ行ったかなんて分からない。以前のことを考えると、連絡する意味もないだろう。
でも、動かなければ、誰も柚を見つけることはできない。
事務所へ戻り、私を見て目を丸くするPさんの横もすり抜けて、事務所内を駆けずり回った。
気配すらなかったので、外に出ることにした。
汗が出ていない場所を探すのが不可能な身体に、無理に力を込めて。
ぎぢり、ぎぢり、と足の裏が地面と擦れ、嫌な音に耳が潰れそうになったけれど。
歩くことはやめなかった。
歩くことはやめられなかった。

――そんなにじっくり見てると照れちゃうナ〜

――そんな目で、私を見るな!

「……私と、おなじだ」

自嘲の笑みが浮かぶ。
柚は最初から、嘘なんてついていない。
ただ、聞いた側が勝手に勘違いしていただけ。
喜多見柚という少女のことを、私たちは、誰も正しく見ていなかったのかもしれない。
それは小さい頃、私のことを、北条加蓮という人間ではなく、子供の入院患者としか見ていなかった大人達のように。
だったら。

「ごめんね、柚……」

伝えなければ。
伝えなきゃいけないことが、いっぱいある。
例え、大切な宝物を粉々に砕いてしまうことになっても。


掲載日:2015年9月4日

 

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