「原稿用紙1枚も書けそうにない」





――事務所の談話室――
工藤忍「あ、加蓮、ちょっといい? 加蓮ってコラム書いたことあるよね。ほら、ネイルの」
北条加蓮「え? うん、書いたことはあるけど……いきなりどうしたの?」
忍「ちょっと手伝ってよ。アタシ達じゃどうにもならなくてっ」グイグイ
加蓮「わ、ちょっと、何? どうしたのさ……って」

喜多見柚「うあー! なんにも書けないーっ!」

加蓮「柚……」
忍「柚ちゃんにそういう仕事が回ってきたみたい。話題のアイドルに迫る! ってお題でさ。Pさんから宿題をもらったらしいんだ」
加蓮「そう……」
柚「アタシこういうのむりーっ! 読書感想文なんて1枚も書けなかったもん!」
忍「柚ちゃんの場合、本を読むところからだったんじゃ……?」
柚「なぜわかる!」
忍「誰でも分かるよ……。ほら、心強い助っ人を用意したよ」
柚「え? あっ、加蓮サンだ! ねねっ加蓮サン手伝って! コラムなんて柚にはムリ!」
加蓮「…………」
加蓮(この前のことなんてなかったみたいに……いつも通り……)
加蓮「柚のプロデューサーさんもマヌケだね。明らかに柚には不向きなのにさ」
柚「むむっ! 柚のPサンの悪口は加蓮サンでも許さないよ!」
忍「ホントだよ。加蓮はそういうこと言わないって思ってたのに」
加蓮「えっ……ごめん。そう言われるとは。で、コラムのテーマは?」
柚「あなたはどんなアイドルですか? だって! 柚は柚だよ!」
加蓮「それを説明するんでしょ。たぶん」
柚「アタシのことが知りたかったらアタシのLIVEにこーい! きっと分かるっ。たぶんっ」
加蓮「まあ、分かりやすいよね、柚のLIVE」
忍「分かる分かる♪ 変化球なんて全くないもん」
柚「あれ? アタシ、2人から馬鹿にされてる!?」
加蓮「してないしてない」
忍「ほら、それより手を動かさないと、いつまで経っても終わらないよ?」
柚「そうだった! エート、『アタシは……」
忍「あたしは?」
柚「……柚です』」
加蓮「小学生か」
忍「もう10分もずっとこんな調子で。加蓮、何かいいアイディアない?」
加蓮「え、まだ10分?」
忍「いや、柚ちゃんの場合、10分悩み続けられるだけでも大したものっていうか……たいてい5分で飽きちゃうし……」
加蓮「ああ、そう」
柚「……うがーっ! こんなのほっといて遊ぼう忍チャン! 加蓮サン!」
忍「はいはい、この宿題、今日までなんでしょ?」
柚「せんせーみたいなことをー!」
忍「今日はアタシが見張り役をやるって決めたんだ。じゃないと柚ちゃん、すぐ逃げちゃうから」
柚「ゆるーくやっていこう! それがアタシ流!」
加蓮「あ、今の書けばいいんじゃないの?」
柚「なるほどそっか! 加蓮サン天才だっ」
加蓮「誰がよ」
忍「……こんなことを言う自分もイヤだけど、天才って言葉、ちょっと引っかかるよね」
加蓮「ああ、やっぱり忍もなんだ」
忍「ちょっとだけだけどね」
加蓮「ね」
柚「えっと、アタシはゆるくがんばってる! ……次に何を書けばいいかな」
加蓮「だからみんなも緩く頑張ろう、とか?」
柚「それだっ! だからみんなもゆるーくゆるーく! 次は!」
加蓮「……ねえ、これさ、友達に宿題をやらせる図になってない?」
忍「そう言わずに助けてあげてよ。たまにはって思ってさ♪」
加蓮「いつもこんな感じでしょ……」
柚「うーん、うーん……アタシは……」
加蓮「柚は?」
柚「……歌ってる!」
加蓮「大抵のアイドルがそうじゃない……?」
忍「もっとあるでしょ、こう、柚ちゃんだから……楽しくやってる! とか」
柚「アタシは楽しく歌ってる! 楽しく踊ってる! 他には他には!?」グイ
忍「えっ。ほ、他には…………何かある? 加蓮」
加蓮「…………」ウーン
柚「他、には……」
加蓮「……見つけるんじゃなくて、掘り下げていったら? 例えば……楽しく歌ってる柚だから、ムードメーカーとか」
忍「……ごめん。フリルドスクエアのムードメーカーっていったらあずきちゃんってよく言われる……」
加蓮「そ、そう。じゃあ、切り込み隊長とか……」
柚「アタシは隊長! みんな、ついてこーい! ……何か違うよっ」
忍「柚ちゃんについていったらどこに行くか分からないよ……」
加蓮「じゃあダンスの方。楽しく踊る、だから……そうだ。柚さ、前にファンの子と友達になりたいって言ってたじゃん」
忍「そんなこと言ってたの?」
柚「言ったよっ。女の子のファン、みんな友達にしたいなっ」
加蓮「友達募集! って感じでさ」
柚「みんなで一緒に踊りたいな! っと」
忍「他には……」
加蓮「んー……」
柚「…………」
加蓮「いっぱい歌が歌えます、とか……」
忍「それこそ、たいていのアイドルがそうなんじゃ……」
加蓮「……ぐるぐる回れます、とか……」
忍「ま、回るんだ……」
柚「……………………」
柚「……………………むり!」バッビリッ!
忍「柚ちゃん!?」
柚「やっぱりこれムリ! アタシちょっとPさんとこ行ってくるっ。別のお仕事もらってくる!」ダダッ
忍「あ…………」
加蓮「…………せっかく書いたのに、ビリビリに破いちゃって」ヒロイ
忍「……アタシ、言い方ちょっとキツかった?」
加蓮「私よりマシでしょ」
忍「そういうことじゃなくてさ……」
加蓮「……ちょっと柚の調子、見てきていい?」
忍「それならアタシが行くよ。ユニットの仲間だもん」
加蓮「ううん……あ、いや……じゃあ、一緒に行っていい? ちょっと……最近の柚、なんか気になって」
忍「うん。さっきは仲間って言ったけど、加蓮がいると心強いね」
加蓮「あんまり期待はしないでよ?」

――事務所の廊下――
加蓮「あっ、柚!」
柚「……!」サッ
忍「逃げた!? ちょっと、待って柚ちゃん!」ダダッ
加蓮「…………」
加蓮(柚…………)

<ギャー! 忍チャンに襲われるー!
<ふざけたこと言わない! せっかく心配して来たのに……!
<アタシのことはほっといてー!
<ほっとける訳ないでしょ!? どうなったの、Pさんに言ったの?

加蓮「柚はどんなアイドルですか、か……そんなに書けない物かな。ふふっ、私だって書けって言われたらキツイかな?」テクテク

<言った! Pサンすっごく怒ってた!
<もう、柚ちゃん
<でも許してくれたよっ。別のお仕事にするって
<柚ちゃんにしては珍しいね、Pさんからの仕事を蹴るって。苦手なことでも頑張ってみればいいのに

加蓮「でも、あの時の柚――」

<ムリ!
<無理じゃなくて――
<アタシを忍チャンと一緒にするな! 柚、そんなに頑張れる子じゃないもん!
<……え?

加蓮「……え?」

<アタシ、忍チャンみたいに頑張れる子じゃない!
<何言っ――
<ダダッ
<あ、柚ちゃん!

加蓮「…………」ダダッ

――事務所の仕事部屋――
忍「…………」ボウゼンジシツ
加蓮「……忍? 大丈夫? すごい顔してるよ」
忍「あ、加蓮……。……柚ちゃんに怒鳴られちゃった」
加蓮「聞こえてた」
忍「ちょっと、自分の考えを押し付け過ぎちゃったかも……。ハァ…………」
加蓮「気にしないの。喧嘩なんていっつもなんでしょ?」
忍「そうだけどさ……やっぱ言い過ぎちゃったなー、アタシ……」
加蓮「…………それが忍だって柚も知ってるでしょ。すぐに頭冷やすよ」
忍「かなぁ……」シュン
加蓮(……忍には悪いけど、こっちは放っておいても大丈夫)
加蓮(問題は…………)チラッ

<あれ、柚? そんなに急いでどうし――
<ダダッ
<…………??

加蓮(どうしたのよ、柚。この前といい、今日といい……)


掲載日:2015年9月1日

 

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