「あなたのためのわたし」
――事務所――
北条加蓮「はいPさん、サインが必要な書類。分けておいたよ」 P「あ、ああ」 加蓮「こっちは郵送できる書類。えっと、コピーがいるのかな? やったことないけどやってみるね」 P「ああ。……あのなぁ加蓮。こういうのは――」 道明寺歌鈴「おはようごじゃいます!(噛んだ……!)」 加蓮「おはよー、歌鈴」 歌鈴「はいっ。……加蓮ちゃん? アシスタントさんになったんですか?」 加蓮「アシスタントごっこ。さて、コピーコピー」 歌鈴「じゃあ私はPさんにお茶を淹れてきます!」テクテク 加蓮「よろしくー」 P「いや、だからお前ら――」 歌鈴「はいっ、Pさん。お茶です」 P「さ、さんきゅ」 加蓮「っと、はいコピー終わり。Pさん、次は何をすればいい?」 P「……………………」ズズ P「……やっぱ駄目だ! こういうの、駄目!」 加蓮「え〜。何かミスってた? そりゃ慣れないことだから足手まといだろうけどさぁ」 P「そういうことじゃねえよ! 俺は加蓮や歌鈴に事務員みたいなことさせるつもりはねえ! 2人はアイドルをやってくれ! こういうことじゃなくて!」 加蓮「事務員系アイドル、だめぇ?」 P「だめ!」 加蓮「ちぇ」 P「ってか、なんなんだよ急に! 特に加蓮! お前そんなキャラじゃなかっただろ!」 加蓮「うーん……なんか、歌鈴を見ててさ」チラ 歌鈴「?」 加蓮「前にその……ぷ、プレゼントもした訳だし……自分の為にアイドルやるんじゃなくて、たまにはPさんの為にっていうか……」 加蓮「わ、私もPさんの役に立ちたいの! いっつも世話になってるしPさんには恩もいっぱいあるんだから!」 P「お前なぁ……だから、加蓮にはいつも世話になってるし、アイドルが輝く姿こそプロデューサーの第一希望だよ」 加蓮「それでもさ。何か無いの? なんか私だけワガママっぽくて、ちょっと嫌なんだけど」 P「ハァ……」ボリボリ P「この際だから言っとくか……」 歌鈴「?」 P「歌鈴にも再三何度も言ってるんだけどな。俺は、アイドルみんながやりたいようにやってくれればいいと思うし、プロデューサーってのはそういう役割っつーか、そういう使命を持ってるんだと思うんだ」 歌鈴「わ、私のやりたいことは、Pさんのお役に立てるアイドルですからっ」 P「んー……あのな。正直なところ、歌鈴が俺の為にアイドルをやってくれているってのはすげえ伝わってる。俺も嬉しい……でもな、」 加蓮「じゃあいいじゃん」 P「加蓮……?」 加蓮「私、いつも思うんだ。歌鈴、いっつもPさんの為にってすごく頑張ってて、転んでも何回も起き上がって」 加蓮「人の為になんて馬鹿みたい……って、最初は思ったけど、でも、歌鈴の気持ちは本物だよ」 加蓮「それに、後ろ向きでもないんだ。自分には何もないから人にすがって生きていく、なんて馬鹿な生き方でもない」 !! 歌鈴「加蓮ちゃん……?」 加蓮「それじゃ駄目なの?」 タタタ... P「…………」 加蓮「私の気持ちを冗談で笑うのは許すけど、プロデューサーだからって理由で歌鈴の想いから逃げるのは許さないよ」 歌鈴「…………加蓮ちゃん」 P「…………初めて歌鈴を見た時さ、この子ならアイドルになれる、とか、この子を輝かせたい、って思ったのもあったけど……それと同時に、この子をアイドルとして育てたら、どういう子になるだろうかって期待があったんだ」 歌鈴「……期待……してくれてたんですか?」 P「おう。それに……ほら、あっただろ。京都の観光大使」 加蓮「確か、歌鈴が初めて藍子に出会った時だっけ?」 歌鈴「そうです。それと、Pさんが初めて私にくれた、大きなお仕事……」 P「あの仕事さ。オーディション形式だったんだけど、正直、歌鈴を推すかどうかずっと悩んでたんだ。書類を出したのはもう、締め切りの1日前、ホントに直前くらいで」 歌鈴「それはっ……やっぱり、私が頼りないから……?」 P「そんなことは――いや、それもあったかもな。歌鈴に任せたらどうなるか分からなくて怖くて、だから藍子をつけたっていうのはあった」 加蓮「……Pさん」 P「怖い顔をせずに最後まで聞いてくれ。応募したら逆に吹っ切れたんだ。こうなったら歌鈴の良さをいっぱいまでアピールしよう、って」 P「普通、京都の観光大使って言ったら、おしとやかっていうか、和風っていうか、そういうイメージがあるだろ?」 加蓮「うん」 P「でも俺は歌鈴にそういう指示をしなかった。歌鈴らしく頑張ってこい、とだけ言った。いざって時には藍子にサポートに回ってもらうようにしてな」 加蓮「なんでPさんはそういうことを? 歌鈴におしとやかさを身につけさせるとかじゃなくて」 P「それが歌鈴だと思ったんだ。ちょっとドジで慌てんぼだけど、精一杯頑張るアイドル。見ている側も、この子がこんなに頑張ってるなら自分も! って思わせるみたいにな」 P「歌鈴の実力もあって、観光大使の仕事は大成功した。京都全体の興行収入がかなり増えたらしい」 P「少し後に理由を聞いてみたんだ。観光客の増加はもちろんだけど、それ以上に地域の商売が盛り返したって。それぞれの店が、歌鈴に触発されてやる気になったんだろうって話してた」 歌鈴「私、そんなに大きなことを……!?」 P「その時に改めて決意したんだ。この子はこの子のまま、無理にあれこれ言うんじゃなくて、歌鈴らしく頑張って欲しいって」 加蓮「でもさ、歌鈴がドジを克服したらどうするの? ってか、それだとドジのままでいろって風にも聞こえるけど……」 P「その時はその時だよ。また新しい売り出し方を画策すればいい。ドジはいくらでも直していいんだぞ、歌鈴」 P「…………なんかおかしいなこれ」 加蓮「あはは、だね」 歌鈴「Pさん…………私……っ」 P「あと、よく藍子みたいにやりたいって言ってるけど……正直、俺はそうはなってほしくない」 P「歌鈴には歌鈴の、藍子には藍子の良さがある。もちろん、加蓮もな」 加蓮「そっか。でも、別の道も見つけていいんだよね?」 P「もちろんだ。ま、相談の1つくらいはくれよ? じゃないと俺が寂しい」 加蓮「はーいっ。……だってさ、歌鈴。どうしよっか」 歌鈴「私は…………」 歌鈴「……やっぱり、私をアイドルにしてくれたPさんには、応えたいです。Pさんの為にやってるんだって考えたら、勇気も湧きます」 P「…………」 歌鈴「でもっ! Pさんが、その、私らしい私を求めてるって言うから! だから、ちょっと探してみます! 私が、何になりたいかっ」 歌鈴「私が、どういうアイドルになりたいか!」 P「……ああ、頼む。ま、深刻には考えるなよ。簡単にでいいんだ。みんなを元気にしたいとか、勇気づけたいとか。なんだったら巫女の良さを知って欲しいとかでもいいぞ」 歌鈴「あっ、それいいですっ、すごくいいですっ」 P「また悩んだら何でも相談してくれ。一緒に考えよう」 加蓮「私も。男の人に言いにくいことがあったら、なんでも言ってよ」 歌鈴「はいっ! も、もっと、頑張って探してみます! そのっ……Pさん、加蓮ちゃん、ありがとうございばずぅ!?」 P「お、おう」 加蓮「あーあー肝心なところで……ほら、泣かないの」フキフキ 歌鈴「あうぅ……や、やっぱり私、ドジを直すことを最初の目標に……!」 P「はは。ってことで、加蓮。お前のアシスタントごっこも終わりだ」 加蓮「えー、私クビ?」 P「さっさとアイドルに戻れ! 暇ならマストレさんに連絡するぞ!?」 加蓮「げぇ。わ、私ちょっと自主レッスンしてくるね!」ピャー 歌鈴「あ、私も一緒にやらせてくださいっ!」テテテ P「…………ったく」 P「さて、次の仕事でも探してくっかな」 |
掲載日:2015年8月26日
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